施政方針演説
「世界で一番企業が活躍しやすい国」を目指します。
― 安倍首相の施政方針演説 ―
今まで総理大臣の施政方針演説なんてものを通して読んだことなんてない。
けれども、このごろは彼の顔を見たくないばかりにニュースなんて見なくなってしまっていて、実際彼が何を言っているのか知らないので、今回はヒマに飽かせて全部読んでみた。
別に アラさがしをしようとしていたわけではないが、そもそも好きじゃない男の言うことだからわたしの感想にはバイアスがかかっている。
虚心坦懐に読んだわけではない。
それでも、今日引用した言葉は「何言うとるんや!」と思ってしまう。
政府とはその国民がいきいき暮らすためにあるのであってけっして企業が活躍するためにあるのではない。
経済とは手段であって目的ではない。
もちろん、言葉というものは文脈があって出てくるものだから、その片言隻句を取り上げてあげつらうのは正しくないかもしれないかもしれないが、わざわざカギカッコを付けてまで語ろうとしているのだから、これは彼の会心のフレーズなんだろうと思う。
続けて演説は
「国際先端テスト」を導入し、聖域なき規制改革を進めます。企業活動を妨げる障害を一つひとつ解消していきます。
と言っている。
(「国際先端テスト」という、なんとも意味不明な言葉は「《理不尽に残っている規制を取り払い世界最先端の制度にしていくことを目指》すもの」(甘利談)なのだそうであるが、なにゆえこのような命名なのかはやっぱりわからない。
「テスト」と言うからには日本は実験材料なのであろうか?)
まあ、それはともかく、要は「世界で一番企業が活躍しやすい国」とは「規制改革」という名の規制緩和を行って、企業にとって居心地のよい国にしようというのである。
原発の再稼働が必然であるのもこの論理の帰結であるのだろう。
ところで、今日の新聞に『現代日本の労働経済』〈石水喜夫著)という本の書評が載っていた。(中村達也 評)
以下、そこに書かれていたことを引用する。
労働力は商品であるにはちがいないが、他の商品とは異なる性質を幾重にも具えたいわば擬制的商品である。(中略)
ところが主流派の経済学は労働力を他の商品一般と同じ論理によって説明づけようとする。賃金という価格は、他の商品の価格と同様伸縮的でなければならず、需要も供給も市場の流動的な調整が可能になるよう、規制を取り外さなければならない。こうした主張をOECDなどの国際機関も大々的なキャンペーンを張って展開してきた。(中略)長期雇用や年功序列などに象徴される日本の労働慣行は、市場の調整機能を著しく損なうものであるから、解雇規制を緩和し労働は県事業を拡大し民間の人材ビジネスを拡張すべき等々、市場の調整機能を強調するものであった。現にそうした政策が推進されてきたのは周知のこと。その過程で非正規雇用が増え、平均賃金が下落を続け、労働の世界が流動化と不安定化と劣化の度を強めてきたのであった。
なにやらむずかしげに聞こえるかもしれないが、ここで語られていることは、「世界」が要求している規制緩和というものはあくまで資本の論理によってなされるものであって、人間の論理によって発せられるものではないということである。
ならば「世界で一番企業が活躍しやすい国」とは、実は「世界で一番人が《商品》になりさがっていく国」というものの別名ではるまいか。
とはいえ、今の日本は、そのようなことを誇らかに言って得意顔でおる首相をいただいている国であるらしい。