凱風舎
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宝物

 

  大寒のシリウス教ふるまでもなく

                北井精一

 

 一枚のはがきがある。
 そこには一面に墨黒々とこんな俳句が書いてある。

  大寒のシリウス教ふるまでもなく

 表にはやっぱり墨で私の名前と住所、それに北井精一という差出人の名前だけが書いてある。
 消印は昭和52年1月。
 私の24歳の誕生日に届いた。

 私はそのころ渋谷区の笹塚というところに住んでいた。
 働いていたわけではないのに、どういうわけだかご飯は食べ、酒を飲んでいた。
 いずれやくざな暮らしをしていたのだ。

 北井君は高校時代の同級生で、会社勤めをしてその頃は中野に住んでいた。
 アパートもそんなに遠くはなかったので年に2,3度は会ったろうか。
 将棋を指していつも私が負けていた。
 そんな北井君から誕生日に届いたはがきだった。 

 私の誕生日はたいがい大寒の日に当たる。(今年は明日だが)
 シリウスは言うまでもなくオオイヌ座の一等星で、全ての恒星の中で一番明るい星だ。
 彼の俳句はそれを歌っていた。

 なぜ、彼が私の誕生日にこんなはがきを送ってくれたのか、私には痛いほどわかった。
 気持ちがピンとした。
 
 今日はあいにくの曇り空でシリウスは見えないが、このはがきは今でも私の一番の宝物だ。